野生医師@経済的自立を目指す勤務医

お金にこだわらず、趣味で勉強しながら医師をするために経済的自立を目指しています。年利10-20%を目標に運用しています。2020年は資産所得300万円/年を目指します。

【書評】地域に希望あり――まち・人・仕事を創る★★★

地域に希望あり――まち・人・仕事を創る (岩波新書)   大江 正章

【まとめ】
資料として読む本。所要時間は2時間弱。
被災地についての記述が秀逸。

【筆者紹介】
1957年神奈川県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。ジャーナリスト・編集者。現在、出版社コモンズ代表。関心領域は農・食・環境・アジア・自治など
地域活性化、地方創生などに関する著書を書かれています。

【感想】
半農半Xなどの例が多数記載されています。
意外と、QOLが上がっても収入には結びつかないようですね。
「確かに」と思ったのは、半農半Xで地方に行く大半の人は、都会であまりうまく行かなかった人たちだということです。
その方々が、努力してQOLを上げる、そのことは素晴らしいと思います。
ただし、現金収入が少ないため、もし健康を損ねたりした場合には、一気に生活苦に陥る可能性もあるため注意が必要です。
安易な地方移住をおすすめすることはできません。
成功例がたくさん書いてある一方で、現実の厳しさが少し垣間見えました。

また、被災地についても触れています。ここは一読の価値があります。
東日本大震災の前に、地域活性に成功しつつあった地域が、東日本大震災によって農業・水産業が大打撃を受けてしまったことが書かれています。
福島県の現地の方々が、漁業再開に向けて悲観的な思いを口にしているのをみると大変心が痛みます。
もともと、福島県浜通り親潮黒潮のぶつかる潮目があるため、日本でも有数の魚種を誇る漁場だったようです。
それが、現在では風評被害のため、市場にすら出ていません。
福島漁業関係者の今後の生活など、どのようになるのでしょうか。

全体的に、地方寄りの視点でありながらも、批判意見を載せたり、客観的な評価がされており、勉強になります。
農業の成功例がたくさん書いてありますが、現実の厳しさも垣間見えます。
半農半Xをめざす方はもちろんですが、地域活性化などに興味がある方は、読んでみてはどうでしょうか。



【書評】「お迎え」されて人は逝く★

(066)「お迎え」されて人は逝く: 終末期医療と看取りのいま (ポプラ新書)  奥野 滋子 (著)

速読系。
2015年8月3日と、最近出た本です。
筆者は緩和ケア科の医師で、これまで2500人をお看取りされたと言う。
その経験にもとづいて、現代の死生観について多方面からの考察があるのだ、と期待しました。

完全に期待を裏切られてしまいました。
筆者の考えがひたすら書いてあります。
曰く、「『お迎え』経験」をする患者さんが多いとのこと。
それは生前お世話になった人だったり知らない人だったりすると。
「せん妄」という意識障害とは別の状態なので、むやみに抗精神病薬の投与を行ってはいけない。
これが筆者の考え方です。

むやみな抗精神病薬ベンゾジアゼピン系の投与がいけないことは分かります。しかしそもそも、終末期の患者さんが苦痛なしに幻覚を見ているからといって、即抗精神病薬の投与を行う医者もいないでしょう。

そもそも、死生観とは個人によって異なるもの。
多くの患者をお看取りされたのであれば、多様な価値観に触れているはずです。医師として、死生観に対して多面的な捉え方を出来なければ、患者さん自身の価値観に沿った治療方針を立てることは出来ません。

筆者の価値観を前面に押し出してしまっているこの本は、少なくとも医療者にとっては良書とは言いがたいです。


【書評】誰が「知」を独占するのか★★★

書籍、芸術作品などすべてのものをデジタルアーカイブ化するという試みについて書かれています。

アーカイブ化の役割が書いてあります。
まずは、知の共有です。
災害時の成功事例、失敗事例もそうです。
東日本大震災で、GoogleやYahooが連携してアーカイブを作ったことは有名です。
滅多に起きない分、どこかに保存しておかなければいけません。

また、資産の喪失を防ぐという点もあります。
本の寿命は非常に短いそうです。ベストセラーでも10年もたないとか。
すぐに廃刊となってしまい、そうすると資産が失われてしまいます。
さらに、フィルム時代の映画などは劣化や火災などでの喪失が非常に多いそうです。
これらの喪失を防ぐというのは、文化的にも大変重要です。

さらに、現在進行しているアーカイブプロジェクトの国際比較も書いてあります。
ヨーロッパでは、Googleに補償をしかけるなど対抗意識がものすごく、アーカイブ化でも対抗するべく政府主導でのプロジェクトが進んでいます。
日本でも、書籍のアーカイブ化はそれなりに進んでいるようですが、ほとんどが著作権の切れた作品だけに限られるという問題があります。

アーカイブ化の障壁についての権利もまとめられています。
JASRACのやり方を参考にすればどうかというのが筆者の意見です。
詳しくは本書を参考に。

色々とまとめられており、勉強になる一冊でした。


【書評】21世紀の自由論★★

Amazonプライムで無料で読めるため、読んでみました。

「社会の外から清浄な弱者になりきり、穢らわしい社会の中心を非難する」という筆者の言葉は面白いです。
コメンテーターや有識者などの意見が、なんとなく他人事のような感じを受けていましたが、それをちょうどうまく言語化されていました。

それがエスカレートすると、過剰なゼロリスク思想に行き着くのだと感じます。
子供の遊具問題もそうですし、最近では福島の問題もそうでしょう。
明らかに科学的な事実を超えて、イデオロギーが先にたった議論が展開されています。

パッと読める本です。




【書評 】人口学への招待 少子・高齢化はどこまで解明されたか★★★

人口学という学問分野があることを知っていましたか?
私は初耳でした。

人口予測は、様々な未来予測のなかで、最も正確なものの一つとされています。
戦争などが起きない限り死亡率が数年で大きく変化することはありません。
さらに、出生率の予測も経年変化が大きく変わることはないからです。

人口変動の三要素とは、出生・死亡・移動と呼ばれており、人口の増減に最も寄与するのは死亡です。
死亡は男女・全年齢にまたがり、しかも人口減少をもたらす直接の原因になるとのことです。

少子高齢化」が問題となっています。
私は、「少子化」と、「平均余命の延長」がもたらした問題だと考えていました。
しかし、筆者は、出生率の低下が人口高齢化を引き起こす主因であることが明らかである』と述べます。
確かに、平均余命が多少延長したところで、65歳以上の人口はそんなに大きく変わりませんが、長年の少子化により、未成年人口は激減しています。

そう思って最近のニュースを見ると、「高齢化問題」は、「少子化問題」と「高齢者の問題」を混同していると言えます。

少子化問題、それは相対的に高齢者の割合が大きくなっているという問題です。
これにより、介護難民の増加、年金の破綻などの問題が起きています。
本来の意味での高齢化社会の問題で、これらは出生率が上がれば根本的には解決します。

対して、「高齢者の問題」は、単に高齢者が増えたという問題です。出生率が上がっても解決しない問題です。
例えば、交通事故や特殊詐欺の被害者に高齢者が増えてきたという問題や、安楽死尊厳死などの問題です。後者は、社会保障費の観点から議論されることもありますが、本来は高齢者の自己決定権の話のはずです。
このような問題は、出生率が上がっても解決しません。

両者を混同して議論することは意味がありません。

さて、少子化...。本当に危機感を感じない限り、出生率向上のための具体的な施策は行われないのでしょうか。
もう十分危ないところまで来ていると思いますが...。

脱線しましたが、この本は、難しいところもありますがとても読み応えがあります。
少子化が、実は社会の構造的な問題で、社会の性質によって起きるということも述べています。
ヨーロッパ各国の比較は大変興味深いものです。
人口予測、高齢化社会などに興味がある方はぜひ一読の価値があります。


【書評】ネアンデルタール人は私たちと交配した★★★

ネアンデルタール人は私たちと交配した (スヴァンテ ペーボ)

一言で言うと、面白い。もう一言つけくわえるなら、長い。
筆者は、考古学と分子生物学を交差させた第一人者のようです。
そのおかげで、博物館に無造作に置かれた化石や骨格標本が、過去のDNAが蓄積された貴重な標本室に変身を遂げました。

それまで何千年も前でDNAもほとんど残っていない骨格標本からDNAを抽出するなんて不可能だと思われてきました。
そこでブレイクスルーを起こした技術は、生物学を少しでもかじったことの有る方ならだれでも知っているPCR次世代シーケンサーです。
ともに、少量のDNAを増幅させる技術です。
PCR技術を考古学に導入することで、化石などに残っている程度のDNAでも増幅して解析することが可能だと証明されました。
次世代シーケンサーが導入された後には、ごく微量なDNAを増幅することが可能になったので、これまでよりも可能性が広がりました。

意外だったのは、DNAの解析にコンタミネーション(汚染)が非常によく起きることです。
気を抜くと現代人のDNAが混じってしまうというのは面白いです。
筆者も非常に神経質になっていたようです。

内容はなかなか面白いのですが、PCR次世代シーケンサーの説明など、科学に関する記述が長い。
筆者が科学者だから仕方ないかもしれませんが。

あと、筆者が自分のことをゲイだと思ってたらバイだった、とか色々突っ込みどころがある内容がサラッと書いてあります。
意外とプライベートがドロドロしていましたが、そのドロドロはあっさりと流されています。
読者はPCR技術よりもそっちの説明の方が興味あるのでは?

科学少年、科学をかじったことのある大人など、幅広くオススメできる本です。


【書評】2人が「最高のチーム」になる―― ワーキングカップルの人生戦略★★★

2人が「最高のチーム」になる―― ワーキングカップルの人生戦略 (小室淑恵, 駒崎弘樹

病児保育のためのNPO法人フローレンスの代表理事駒崎弘樹氏と、多用な価値観を受け入れられる社会をめざす株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役の小室淑恵氏との対談本です。

この二人の対談ですので、予想通り新しい価値観を持ったライフスタイルを提唱しています。

私は、いわゆる「ゆとり世代」に分類される人種のため、彼らの考え方には賛同するところも多いですが、彼ら自身が現在のスタイルを確立するまでには、途方も無い戦いがあったのだと思います。

大黒柱などという考え方は古いですし、甲斐性がない、といった言葉も消え行くでしょう。
今後、女性の社会進出・自立が進むのは当然です。
医師でも、現在の医学生の40%が女性だという統計もあります。
30年前が10%程度であったことを考えると隔世の感があります。

女子医学生たちは、よく妊娠して家庭に入ってしまう人が多いために医局に入れてもらえないだとか、入学試験でも男子が優先されるという話を聞きます。
この状況を筆者たちが聞いたらどう思うだろうな、と感じます。女性が妊娠・出産するのは当然で、その後のキャリアを築けないことが問題です。医師は、現時点では資格職ですので、本来は働き方も自由に選びやすい仕事のはずです。
しかし現実には、「当直をしてくれないと困る」、「手術をできない奴はいらない」などと、医局側で選り好みをしています。いまだに終身雇用、年功序列の価値観が染み付いているのが医療界です。
この医師不足の時代、女性医師の力を最大限活用できるようにするには、多様な働き方を許容する以外に答えはないはずです。

女性で働いている方などは、読むと参考になる方が多いかと思います。